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「ありがとう」をためらうとき。感謝の伝え方と受け取り方を研究から考える

お礼を言いたいのに、今さら気まずいかもと迷う。感謝を伝える側の予想と受け手の反応を比べた研究、実際の会話を調べた研究から、相手の行動と自分への意味を言葉にする方法を考えます。

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この記事で考えられること

  • 感謝の手紙を受け取った人は、送った人の予想より肯定的に感じたという研究がある
  • 相手がしてくれたことと、自分にとっての意味を分けると、伝えたい内容を選びやすい
  • 研究は全員の反応を保証しない。例文は自分の経験に合わせ、返事を求める道具にしない
目次
  1. 感謝の手紙は、送り手が思うより肯定的に受け取られた
  2. 言葉を整える前に、出来事を一つ選ぶ
  3. 「助かった」に、相手がしてくれたことを添える
  4. 言いそびれたお礼を、一つの出来事から書く

助けてもらったことを、あとから思い出す。「あのとき、うれしかった」と伝えたい。でも、今さら大げさだろうか。うまい言葉も見つからない。そうして、お礼のメッセージを閉じてしまうことはありませんか。

そんなときは、自分が予想する気まずさと、相手が実際に感じることを、いったん分けて考える余地があります。感謝の手紙を使った研究では、送る側の予想と、受け取る側の報告にずれが見られました。[1]

誰にでも送ればよい、という話ではありません。研究でわかる範囲を確かめながら、伝えたい気持ちを、自分の経験に合う短い言葉にしてみましょう。

感謝の手紙は、送り手が思うより肯定的に受け取られた

感謝を伝える人は、受け手の反応を控えめに予想することがあります。Amit KumarとNicholas Epleyが2018年に発表した研究の実験1では、MBAの学生107人が、自分にとって意味のあることをしてくれた相手へ感謝の手紙を送りました。[1]

送り手は、相手がどれほど肯定的な気持ちになるか、気まずく感じるかなどを予想。研究者は、連絡の許可が得られた受け手92人へ質問し、80人の回答を得て、送り手の予想と比べました。平均では、受け手の肯定的な気持ちは予想より強く、気まずさは予想より小さいという結果でした。[1]

感謝の手紙を送った人の予想と、受け取った人自身の報告を別々に集め、比較した研究手順
KumarとEpleyの2018年論文・実験1の手順をもとに編集部が作図。送った人の予想だけで相手の気持ちを判定せず、受け手の回答と比較しています。効果の大きさを表すグラフではありません。図版:MICHIME編集部 / 出典 / MICHIME制作素材・本媒体掲載用 / 研究手順を独自に図解・WebP書き出し

ただし、送り手が自分で選んだ相手に感謝した場面での結果です。受け手全員の回答もそろっていません。回答しなかった人の反応が違えば結果に偏りが出る可能性を、著者らも論文で検討しています。「送れば必ず喜ばれる」とは読めません。[1]

それでも、送る前に思い浮かべた「困らせそう」は、相手から受け取った返事ではない。この区別は、お礼をためらう理由を見直す手掛かりになります。

言葉を整える前に、出来事を一つ選ぶ

感謝の言葉を考えるとき、文章の出来と、伝えたい内容は分けて眺められます。KumarとEpleyは、送り手が「うまく表現できるか」に注意を向ける一方、受け手は言葉に込められた温かさや意図を受け取る、という見方の違いを説明の候補に挙げています。[1] これだけで、ためらう理由のすべてが説明できるわけではありません。

たとえば「この前は、本当にいろいろありがとう」と書いたあと、もっと気の利いた言い方を探し続けているとします。そこで一度、表現を磨く手を止めて、「いろいろ」の中身を一つだけ選んでみる。話を急がずに聞いてくれたことなのか、わからない箇所を調べてくれたことなのか。

これは編集部からの提案です。長い文章にするためではなく、自分が何に感謝しているのかを確かめるために具体化します。短い「ありがとう」で十分な場面もあり、毎回理由を詳しく説明する必要はありません。

「助かった」に、相手がしてくれたことを添える

感謝の会話では、自分が得たものに加えて、相手のよい行動へ目を向ける表現が研究されています。Sara B. Algoeらの2016年の論文は、米国の恋愛関係にあるパートナー同士の、合計370の会話を分析しました。相手の行動やよさを認める表現が多いほど、受け手が「理解され、大切に扱われ、気にかけてもらった」と感じる評価と正の関連がありました。[2]

ここでの370は、人数やカップル数ではなく会話の数です。また、会話の内容と受け手の評価の関連を調べた結果なので、「この言葉を足すと関係がよくなる」という因果関係の証明ではありません。対象も米国の異性カップルで、日本の友人や職場の会話への効果を直接確かめた研究ではありません。[2]

MICHIMEでは、この視点を日常の文へ置き換えるなら、「自分はどう助かったか」と「相手が何をしてくれたか」の両方を思い出す方法を提案します。

お礼の一文を、相手がしてくれた行動「話を急がずに聞いてくれた」と、自分への意味「迷っていたことを整理できた」に分ける図
相手の行動と自分への意味を対応させた、編集部作成の架空例。論文中の発言の引用や、効果を検証した定型文ではありません。図版:MICHIME編集部 / MICHIME制作素材・本媒体掲載用 / 独自作図・WebP書き出し

図は編集部が作った架空例です。「助かった」を削るのではなく、その前にある相手の行動を言葉にしています。研究から、自分が助かったことを伝えるのは悪い、とは言えません。[2]

大きな人格評価をしなくても、「話を急がずに聞いてくれた」という、自分が覚えている行動なら書けます。「あなたはいつも完璧」「誰よりも優しい」のように広げるより、今回の出来事に戻ってみてください。

言いそびれたお礼を、一つの出来事から書く

感謝を伝える一文は、実際にしてもらったことを一つ選ぶところから作れます。たとえば、次のように書けます。

この前、話を急がずに聞いてくれてありがとう。迷っていたことを、自分でも整理できました。

少し時間がたっているなら、「今さらだけど」だけで始めるより、「先月、資料を一緒に確認してくれたときのことを思い出して」と、どの出来事かを添える方法もあります。相手の行動と、それが自分にどう残っているかを伝えるための、編集部作成の例です。この文面の効果を実験したわけではありません。

書く前に、出来事が具体的に思い出せるか、心から伝えたい内容かを確かめます。よく見せるためのほめ言葉や、次の頼みごとを引き受けてもらうための言葉を足す必要はありません。

送ったあとの反応も、感謝の正しさを採点するものにしないでおきたいところです。長い返事が来ることを条件にせず、自分が伝えたかったことを言葉にできたかを見ます。相手が連絡を望んでいない場合には、研究の平均的な結果を理由に再接触しないでください。

今、誰か一人を思い浮かべるなら、「何となくありがたい」から、覚えている一つの場面へ。その人がしてくれたことと、自分に残ったものを、自分の言葉で伝えてみてはいかがでしょうか。自分の気持ちを言葉にすること自体が難しいときは、希望を伝える小さな言葉も参考にしてください。

A QUESTION FOR YOU

自分に聞いてみるなら

言いそびれたお礼があるなら、その人がしてくれた何を覚えていますか?

正解はなくても大丈夫。今の言葉で、ひとつだけ。

出典・参考資料

  1. Undervaluing Gratitude:感謝を伝える側の予想と受け手の報告を比較した研究 ↗

    Amit Kumar・Nicholas Epley/Psychological Science 29(9), 1423–1435(2018)、著者サイト公開PDF / 確認日 2026-10-05
    実験1の参加者107人・連絡対象92人・回答80人、予想と実際の平均差。Introductionの説明仮説とGeneral Discussionの非回答による偏りの留保。

  2. Putting the “You” in “Thank You”:相手のよい行動を認める感謝表現と受け取り方 ↗

    Sara B. Algoe・Laura E. Kurtz・Nicole M. Hilaire/Social Psychological and Personality Science 7(7), 658–666(2016) / 確認日 2026-10-05
    Study 1・2とDiscussion。恋愛関係にあるパートナー間の370会話、other-praisingと受け手の評価の関連。相関研究であり、定型文の因果的効能は示していない。

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